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第8回ラムサール会議(スペイン・バレンシア市)視察を終えて

 去る11月13日から18日にかけて、日弁連公害環境委員会の一員として、スペイン・バレンシア市で行われた第8回ラムサール会議の模様を見学し、それに先立って行われた、湿地保全・再生に関連する2つのNGO会議に参加して参りました。また、会議の前や合間にスペインのラムサール登録湿地(ラムサールサイト)3か所を視察して参りました。

写真1
ラムサール会議場

 ラムサール会議場 ラムサール会議の模様は日本でも大きく報道されているとおり、名古屋の藤前干潟と北海道の宮島沼が新たにラムサール登録湿地となりました。
 会議では、各参加者にブースが貸し出され、日弁連も6m2のスペースを借りて、今取り組んでいる沖縄泡瀬干潟の問題や泡瀬干潟の写真、これまでの日弁連の取り組みを展示しました。 

 さて、ラムサール条約といえば、水鳥の保護ということを念頭に思い浮かべる方がいらっしゃるかも知れませんが、3年に一度に開かれ続けているラムサール会議の現在到達点は、水鳥保護ということよりも、実はその生息域である湿地を保護するということに重点が置かれています。
 ラムサール条約第1条では、「湿地とは、天然・人工、汽水・淡水を問わず、沼沢地、湿原、泥炭地又は水域を言い、低潮時における水深が6mを超えない海域を含む。」と極めて広く定義しており、これによれば、湿原、河川、湖沼、池、貯水池、水田、海岸、干潟、マングローブ、サンゴ礁、藻場などの多様な水辺環境が湿地とされます。したがって、奥山の清流のせせらぎ、渡り鳥が群がる湖、のどかに広がる田園風景、都市空間の憩いの場とされるリバーフロント、青松と白砂が続く浜辺の景観等々、私たちの生活はラムサール条約が適用される湿地のネットワークに囲まれていると言っても過言ではないでしょう。 

 これまで湿地は、土地の拡大、農業の振興などを理由に、その多くが埋め立てられ、消失してきました。湿地とその周辺地は、平坦で開発コストも安いため、農地・宅地・商工業用地造成の最適地として、第2次世界大戦後を中心に、生態系への配慮もほとんどなされないまま、急激に開発されてきたのです。
 大阪湾ではほぼ100パーセント、東京湾でも約90パーセントの干潟が消滅してしまい、八郎潟、河北潟などわが国を代表する汽水干潟も米増産のスローガンの下、農地造成のために干拓されてきました。
 多くの河川で発電・治水・利水等の目的でダム建設や直線化やコンクリート護岸等の河川改修が行われて河川環境は悪化し、土地改良事業によって農業用水路がコンクリート三面張りにされホタルやメダカの姿も消えてしまったのです。
 このような事情は姿形は違っても、同じような状況は地球上いたるところで見られたと思います。

 ところが、ラムサール条約をきっかけに湿地の価値が見直されてきました。湿地は陸地と海、湖水の生態系が交差する場所であり、このため極めて多様な生物がいます。
 そして、堆積土砂と侵食のコントロール、洪水調整、水質の保全と汚染の緩和、地下および地上の水供給の保持、漁業・牧畜業・農業の基盤の提供、人間社会のための野外レクリエーションおよび教育の場の提供、気候安定への寄与、さらに地球温暖化やヒートアイランド現象の緩衝等その価値も極めて多様なのです。

 日弁連公害環境委員会では、郡山市で行われた人権擁護大会で、湿地の保全と再生の問題を取り上げました。
 環境省は重要湿地500選を発表し、湿地の保全に対して保護の姿勢を見せるものの、現実には沖縄ではその重要湿地のリストに挙げられている泡瀬干潟の埋立工事が開始され、諫早湾では干拓事業が進められています。結局、新たに2か所ラムサール登録湿地を増やしても、それ以上の湿地を国や地方自治体自らが破壊していたのでは、どうしようもありません。自然再生推進法にしても、一方で湿地を破壊して、一方で再生するというのは矛盾していると思います。まず国が為すべきは、現状の湿地を保全する、湿地の消失につながる開発を中止し、規制するということであり、その上で、今まで破壊してきた湿地を回復、再生するということではないでしょうか。
 そして、我々は前記人権擁護大会でこのような問題は湿地保全再生を目的とする特別法を作らないと解決しないのではないかという問題提起を行いました。

写真2
NGO会議・会議場前にて

 さて、湿地の重要性が見直されてきてから湿地に対する国の姿勢も様々ですが、アメリカ、ヨーロッパでは湿地の保全再生に積極的に取り組んでおり、特に、アメリカではノーネットロス政策で、アメリカにある湿地はその総和としては減少させないという政策を採っています。欧州では、EC全体で農業政策を考える立場から、農地に余り向かない干拓地を湿地に戻したり、直線化した河川を昔の河川に戻す施策を取っています。
 しかし、アジアでは、まだまだ湿地の重要性が認識されていないと言っても良いでしょう。
 NGO会議では、湿地政策について先進的な国からも立ち後れている国からも多くの人々が参加し、湿地の消失の危機感を訴えるとともに、いかにして、湿地を保全・再生するかの方法論について議論しました。
 この会議を通じて感じたことは、湿地の消失の危機は世界共通のものであるし、また、湿地を守ろうとする市民の熱意も世界共通、そして、湿地をいかにしたら守れるかという方法論も世界共通だということです。日弁連が人権擁護大会で提唱した湿地保全再生のための提言は世界的に見て全く遅れたものではないと思いました。
 むしろ、問題はそれをいかに実践していくかということです。

写真3
サンタ・ポラの塩田にて
写真4
アルブフェラ湖畔

 会議の前後に、我々は紀元前あの有名なハンニバルの時代ローマ帝国とカルタゴの国境となっていたエブロ川と、スペインのラムサールサイトを3か所を回りました。3つのラムサールサイトとは、塩田にフラミンゴが舞うバレンシア市西部にあるサンタポラとその近くのエルチェ(市内に植えられているヤシの木全体が世界遺産)にあるデル・オンド、そして、バレンシア市近郊のアルブフェラです。
 いずれの湿地もすばらしく、特に、アルブフェラでは湖上にボートを出して、ランチを取った後、水鳥を観察しました。湖上でバレンシアオレンジを味わったことは一生忘れない思い出となりました。(ちなみに、本場バレンシアオレンジの味は、日本では味わえない酸味の利いた絶妙の味でした。)

 スペインはキリスト教とイスラム教の長い間の戦いの中で、荒れたままに放置された土地が乾燥化してしまっており、山ははげ山となり、川も涸れて、砂漠化しつつあります。あの有名な映画「アラビアのロレンス」もスペインで撮影されたそうです。また、農業の利水を巡る紛争も深刻で、バレンシアでは今でも定期的にカテドラルの前で利水者の代表による「水裁判」が行われています。
 このように乾燥したスペイン風景を目の当たりにすると、日本は本当に国全体が湿地と言っても良いくらい、水に恵まれた本当にすばらしい国だと言えるでしょう(かつて豊葦原のなかつ国、豊葦原の瑞穂の国などと呼ばれていたくらいですから、その呼称からも多くの湿地が存在していたことが想像されます。)。日本の湿地は世界的に見ても本当に貴重な存在だと思いました。世界に出て日本のすばらしさを再認識しました。
 水のある風景は我々の心を本当に和ませてくれます。
 水辺環境をいかにして守るかの方法論はあります。問題は、それをいかに実現するかでしょう。それには言い古された感はありますが、市民に湿地のすばらしさを認識してもらうことと、それに目覚めているNGO・NPOの活動がもっともっと活発になることでしょう。最近では、霞ヶ浦のアサザプロジェクトなど、NPOが行政や市民を巻き込んで湿地の保全を実現している新たなうねりも見られます。
 北海道には釧路湿原に代表される貴重な湿地が数多くあります。機会がありましたら、是非、湿地のすばらしさを体験して欲しいと思います。

 日弁連公害委員会では、湿地に特化した部会を立ち上げ、湿地の問題を今後も取り上げていくことを検討しています。そして、3年後のラムサール会議にはもっと周到な準備をして臨みたいと思っています。

以 上

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