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知床の夕日
 

 北海道弁護士会連合会公害対策・環境保全委員会では、去る10月16、17日、世界遺産登録が期待されている知床国立公園を視察しました。参加メンバーは札幌弁護士会から7名、日弁連から2名、地元網走から1名の総勢10名の弁護士でした。調査の目的は、原生的自然が多く残されている北海道の中にあっても、最も保存状態が良いとされる知床を視察し、現在の自然環境保護のあり方、世界遺産登録申請中の現在の動き、同登録が果たされた場合にツーリズムが環境に与える悪影響などについて検討をする目的でした。
 自然保護部会では、2006年に釧路で行われる予定の人権擁護大会において、野生生物のエコマネージメントや国立公園のあり方の考えるシンポジウムを開こうと計画しており、地元の札幌弁護士会や道弁連の公害環境委員会と連携しながら、その準備をしている最中なのです。

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オシンコシンの滝
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フレベの滝

 我々は、まず、知床の斜里町ウトロにある知床財団を訪問し、山中事務局長からお話を伺いました。知床の斜里側には知床八景(知床五湖、オシンコシンの滝、フレベの滝、カムイワッカの湯など)と呼ばれる名所が多数あり、知床五湖を中心に夏場多数の観光客が訪れ、オーバーユースの問題が生じ、観光客が持ち込むゴミや食べ物を残し、その味を野生のクマが覚えてしまう危険性があること、さらに、陸路では行けない岬の方へ、シーカヤックなどを利用して海路知床岬に上陸してキャンプをするなど人々がおり、やはり、食べ物を持ち込んでしまっていること等をお聞きしました。
 また、北海道では道東を中心に、天敵のオオカミがいなくなり、さらに、狩猟圧力も減っていることからエゾシカが大量に増え、シカが好まないアメリカオニアザミ(外来種)とハンゴンソウ以外を食べてしまって、植物相がこの二つに偏るという状態になってしまっているという影響が出ている事を知りました。
 さらに、公園を管理している環境省の職員は斜里側が2名で、知床財団が環境省や地元斜里町の委託を受けて、ヒグマ保護対策、ヒグマの被害にあわないようにするための環境客への啓蒙活動などを行っているとのことでした。斜里町の知床財団は、いろいろな意味で知床国立公園の環境保全に大きな役割を果たしていることを知りました。

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岩尾別川にて
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河床低下現象

 次に、我々は岩尾別川の砂防ダムを訪れ、ダムによって河床が低下しているのではないかと言われている現場を視察して来ました。説明をしてくれたのは、砂防のダムの問題に取り組んでいるカメラマンの稗田一俊氏で、同氏から、河床低下は上流からの小さい石などが川に供給されないために、河床が安定せず、どんどん下流に土砂が流されてしまい、河床が低下し、河畔の土砂をえぐるようにして取り除いてしまうという現象が起きているという説明を受けました。
 また、同ダムが、淡水魚類にどのような影響を与えているかについては、桑原知禎氏からレクチャーを受けました。ダムの設置は、河床低下を招き、ダムと川面の大きな段差をもたらし、魚道が付けられている場合でもそれが使えなくなってしまって、サケの遡上を阻んでいることも考えられるとのことでした。また、レクチャーの中で、サケマスのふ化事業は、サケマスの自然産卵を阻んでいる。サケが自然産卵するということは、貴重なタンパク源を川の上流にもたらし、これによって、大型ほ乳類や猛禽類は飢えずに済むというすばらしい食物連鎖が成立しているという説明を受けました。
 ちなみに、IUCN※1デビッド・シェパード保護地域事業部長が今年7月に来日し、知床の現地調査を実施し、候補地内の河川にある数十基に及ぶ砂防ダム等について、人間の福祉や生活に深刻な危険を及ぼさない場合には将来河川工作物(ダムなど)を撤去する必要性などを指摘しました※2
 知床が世界自然遺産登録を受けるためには、いくつもの自然保護政策と原生的自然を取り戻すための積極的施策が必要だということを感じました。 
 私が2年前に訪れたフロリダでは氾濫源を元の姿に戻すために、小さなダムを爆破して破壊し、氾濫源内にあった牧場を立ち退かせていました。知床を自然遺産とするためには、できるだけ、ダムを撤去し、元の自然の姿に戻すことが必要ではないでしょうか。

※1 IUCN(国際自然保護連合)は、1948年に設立された、国、政府機関、NGOからなる国際的な自然保護機関である。IUCNの世界保護地域委員会(WCPA)が中心となって、自然遺産に関し技術的な評価・調査をおこない、自然遺産の登録について助言している。
※2 なお、11月2日、「知床世界自然遺産候補地地域連絡会議」は、現在、住民の生命や財産を保全するため、一般的に地域の要請に基づいて設置しており、土砂流出や山腹の崩壊を防ぐことにより森林の生育基盤を保全する機能や、土砂災害を防止する機能を果たしているので、将来における対応は別として、住民の生命や財産を保全する必要性がある間は、河川工作物を撤去することは困難であるとする旨の回答をしたとのことです。(林野庁ホームページ参照)

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特別保護地区

 翌日は、環境省のレンジャーの方に同行して、特別保護地区に入ることができ、幸運にも6頭のヒグマを目撃し、そのうち1頭とは20mという至近距離で観察することができました。野生のヒグマは美しい金色の被毛で覆われ、神様が宿っているような雰囲気を持っています。知床は、番屋の漁師とヒグマの交流などから、クマが人を襲うことは無く、奇跡的にバランスを保っているところであることを番屋の船頭さんからお聞きしました。知床に残る原生的自然、遡上するサケが、ヒグマに食べ物を十二分に供給してくれているのでしょう。調査から戻る際、真っ赤に染まった知床の断崖と荒々しい海を見ながら、この地は後世に絶対に残すべき土地であるという思いを強くしました。

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知床の夕日その2

 余談となりますが、今年の人権大会では、リゾートやツーリズムのあり方を取り上げましたが、知床もマスツーリズムの波に巻き込まれようとしています。大勢の観光客は、大型バスでやってきて、知床五湖のうち1つの湖を回って、去っていきます。大型レストランで、海鮮料理を食べて、ホテルではカラオケをします。我々が宿泊したホテルは、知床の一番奥に位置するホテルでした。都会の喧噪を離れ、夜の星の輝きに目を見張りながら、露天風呂に浸かるということを想像していたのですが、調査の成果を話しているとき、隣室の大宴会場からカラオケが大音響で聞こえてきました。最果ての地で何故他人のカラオケを聞かねばならないのか。日本人の旅行のスタイルについて、本当に考えさせられました。

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