
98年の弁連人権大会の第二シンポジウムでは、「公共事業を国民の手にー真の豊かさと環境保全を求めて」をテーマとして、近時、極めて注目を集めている公共事業と環境破壊の問題を取り上げましたが、同年5月3日から11日にかけて、私は、実行委員の一員として環境先進国であるオランダ・ドイツを訪れ、両国において、公共事業を計画、実施する際にどのような手続とって環境問題と開発の調和を図っているのかを調査をしてきました。

最初に訪ねたオランダでは、滑走路の拡張計画問題が持ち上がっているアムステルダム近郊のスキポール空港を見学した後、ユトレヒトの環境影響評価委員会に向かいました。
この環境影響評価委員会は、各公共事業の環境に与える影響の評価を行う組織ですが、国の行政組織ではなく、独立した財団で省庁からの補助金で運営されています。同委員会は委員長を頂点に、5人の部会長、15人の事務職員がおり、各部会は各プロジェクト毎に3ないし7名の専門家を依頼して、各プロジェクトにつき、9週間以内に評価を終えることになっています。
オランダの環境影響制度の最大の特徴はこの独立した環境影響評価委員会が短期間に客観的な意見を述べて(決定には参加しない)、それを聞いた上で、行政機関が公共事業プロジェクトの実施を決定するということです。環境影響評価を事業実施機関の下請け機関でなく、独立した財団法人が行い、しかも各専門家が客観的にこれを行うことから、オランダでは環境影響評価の精度、信頼度が高く、行政機関も通常は環境影響評価委員会の意見に従っています。委員長は現在ロイヤルダッチシェルの会長であり、部長は産業会、研究機関、商業関係等から選ばれ、権威ある委員会になっているようです。
この環境影響評価委員会のあり方は、開発寄りで、開発にお墨付きを与える制度でしかないという批判さえある日本のアセスメント制度のあり方を改革していく方向を示すものとして大いに参考になりました。

ところで、オランダはご存じの通り国土の多くを、元来湿地だった土地を干拓によって農業に適したものに変えることによって拡げて来ましたが、オランダの北東部のフリースランド地方では一度干拓した土地を元の湿地に戻すという事業が土地改良事業の一つとして行われていました。アムステルダムからバスにのって数時間の後、我々は小綺麗なレストランでおいしい昼食の歓迎を受けながら、担当の森林官の方から事業の概要を聞きました。森林官の方によれば、この土地に日本人が来るのは初めてということでした。確かに、何の観光施設もないこの方面に観光客が来ることはまずないと思われました。
我々は昼食後小さな20人乗りのボートで水路を巡りました。途中白鳥がボートを先導してくれたり、コウノトリの歓迎を受けるなどして、小雨の中、オランダの湿地を間近に観察することができ、参加メンバーは皆喜んでいました。このような体験は観光では絶対にできないものでしょう。
オランダ調査の空き時間には、たくさんのゴッホ(ちなみにオランダではホッホを発音するので、ゴッホ博物館はどこですかとあちらの方に訪ねても全く通じません。行かれる方はご注意を)の絵画を時代順に鑑賞することのできるゴッホ博物館、有名なレンブラントの「夜警」が展示してある国立博物館を見学しまた。特に、ゴッホ博物館では、ゴッホの絵の圧倒的な力強さに感動しました。
また、早朝、アンネ・フランクの隠れ家に行きました。「アンネの日記」の舞台となった隠し部屋は、そのままの姿で残されていますが、朝からたくさんの観光客が訪れていました。皆ナチズムの悲劇を繰り返しては成らないと心に刻んでいるかのように、真剣に見学していました。
次ぎに我々は列車でドイツに移動し、ボンにある国の環境省、ノルトライン・ウエスト・ファーレン州の環境・建設省や緑の党を調査しました。
ドイツは、どの都市も緑が大変豊かで、それぞれに個性があり、歩いているだけで本当に心が豊かになるような気がしますが、特に、ボンはドイツでも最も緑が多い都市として有名で、日本の多くの大都市のようにただ住んで働ければそれでいいのだという都市作りとは大いに異なり、住空間、交通システム、職場環境をどのように調和していくかが考え抜かれています。
我々は訪問先で、公共事業が中止された例などを聞こうと思いましたが、残念ながら、原発以外に公共事業の計画が中止されたことはないというお話で、当てが外れた形となりました。訪問先の方々は揃ってドイツの環境保護システムは世界で最も優れているが、実際に公共事業による環境破壊が避けられているかといえば疑問があるという回答されていました。欧州はどの国も好景気に沸いており、開発優先の雰囲気が強く、残念ながら、国民の中には環境保全のためのシステムにより開発にかかるまで数年の時間を要することを憂慮するという意見もあるようで、我々がこれまで抱いていたイメージとは大きく隔たっていました。
ただ、我が国のように行政が議会の承認なしに、また、住民からの異議や訴訟提起に阻まれることもなしに、いとも簡単に公共事業が開始されてしまう現状とは全く異なり、公共事業の計画立案にあたってはビオトープの確保など環境に配慮した施策が取られ、また、住民に対し地域計画が公開され、住民には公開された計画について意見、反論、批判を述べる権利が与えられるほか、自己の権利が侵害された場合には、裁判を提起することができるようになっているのです。
その後、ハンブルクを経由する班とケルン・デュッセルドルフに立ち寄る班に分かれて、最後の訪問地フランスパリに向かいました。私は後者の班の班長として、ケルン・デュッセルドルフ経由でパリに向かいました。ケルンの有名な大聖堂に登った後、デュッセルドルフでこの季節しか食べられないホワイトアスパラガスを、有名なアルトビール(地ビール)の店「シューマッハ」で食べ、一路、パリに向かいました。「シューマッハ」の中庭でドイツ人に混じって食べたドイツ料理と地ビールは最高で、機会があればもう一度訪れたい店です。
我々は最後にパリを訪問、都市自体を芸術品としてすべく、様々な建築規制をしているパリの市街を見学して、欧州随一のハブ空港であるシャルルドゴール空港から日本に戻りました。
海外調査をしていつも感じることは、札幌の公害環境委員会のメンバーと一緒にドイツやオランダの都市環境を視察したいなあと言うということです。ドイツに行く前後には、周囲の方々にドイツの話をして煙たがられていますが、つい話をしたくなるだけのことはあるのです。
環境先進国の施策や環境に配慮した都市を歩くことが、どういうことかを皆に知ってもらいたいのです。そして、単なる観光ではなく、目的意識をもった視察だからこそ、見えないことも見えてくるのです。ドイツから日本を見つめることで、環境問題に対する意識も大きく変わってきます。