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2009/03/25 (Wed)

お奨めの一冊vol.6 有吉佐和子著・「華岡清州の妻」・新潮社文庫(400円)

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 紀伊に生まれた華岡清州(1760年〜1835年)は、京都に遊学後、1785年に帰郷して医業を開業、それ以来20年にわたって薬用植物の採集と動物実験を続けた。彼の時代から1600年前の三国志の時代の華佗(かだ)が創製したという麻沸散のような麻酔薬を作って、外科手術に応用しよとうと考えた。「麻沸散」とは、大麻を含んだ処方だったらしいが、書物にはその処方が残っていなかった。そこで、華岡清州は度重なる動物実験を経て調合した薬にある程度の確信をもち、それを妻の加恵、実母の於継に対して人体実験を行い、全身麻酔薬「通仙散」を完成した。この薬はチョウセンアサガオ(キチガイナスビ)の葉を成分とするものであった。この副作用で、加恵は盲目になり、於継は命を失う。
 この痛ましい人体実験の果てに、華岡清州は1805年に世界初の全身麻酔を用いた乳癌の摘出術に成功した。この全身麻酔の手術は、アメリカで笑気ガスによる麻酔法が試みられた1844年よりも39年も前のことであった。(船山信次著・毒と薬の世界史・中公新書より)

 物語は、華岡清州にではなくて、この人体実験に自らを捧げた加恵と於継にスポットライトを当てて、妻加恵の目線で華岡清州が全身麻酔薬の完成に至る過程を縦軸に、加恵と姑の於継の確執を横軸にして、ストーリーを展開させていく。
 ほんの僅かな手がかりをもとに、麻酔薬をどのように開発していく華岡清州という医師への興味もさることながら、献体として自らを差し出した、妻と姑の心理にも大きな興味が湧く。

 華岡清州の愛情を勝ち得たい姑と妻が、その確執から競って人体実験の被験者となることを申し出る。そして、その副作用で妻加恵は視力を失う。しかし、視力を失って初めて得るものもあった・・・。
 題材もさることながら、女性作家ならではの切り口で語られる妻と姑の心の葛藤にすごみがある。
○ 
 中高年以上のかたはテレビドラマで記憶している方もいるだろうが、小説でも一度読んでみて欲しい。また、初めて「華岡清州」という名前を聞く世代の方も是非読んで欲しい。

 なお、世界的には、全身麻酔を開発したのは華岡清州とは認知されていないのは誠に残念だ。日本人として誇りに出来る成果だと思う。日本人のすばらしさここにありだ。知力こそ、世界を生き抜く上での、日本の活路だ。だから、現代のような知の衰退は憂うべき事態だと思う。
 温故知新、世界に誇れる先人の遺業をもっと我々は知らねばならない。

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