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正面から語るということ
NHKの土曜ドラマ 男たちの旅路 は、何度再放送を観ても心に残る作品です。
鶴田浩二演じる主人公のもとに、水谷豊、森田健作、桃井かおり、柴俊夫ら若者たちが集い、警備会社のガードマンという仕事を通じて、本音と本音をぶつけ合っていきます。登場人物たちは決して器用ではありません。
しかし、不器用だからこそ、逃げずに相手と向き合い、言葉を尽くそうとします。
その姿は、今の時代だからこそ、強く胸に迫ってきます。「言わない」か「言い過ぎる」かの社会
現代社会では、意見の対立そのものは珍しくありません。
ただ、その多くは、相手を前にした対話ではなく、SNSなどの間接的な場で表明されます。画面の向こうでは強い言葉を使えても、本人を前にすると何も言えない。
あるいは、感情が先に立ち、必要以上に激しい言葉になってしまう。
その結果、「何も言わない」か「言い過ぎる」か、極端な選択になりがちです。「男たちの旅路」が描く世界は、その正反対にあります。
逃げ場のない場所での対話
ドラマの中では、同じ現場で働き、同じ時間を共有する中で、価値観の違いが必ず表に出ます。
不満があれば口に出す。
反論されれば、さらに言葉を探す。沈黙や陰口では、その場は通り過ぎられません。
だからこそ、言葉には重みが生まれ、対話は簡単ではなくなります。
この「正面から語り合う」姿勢こそが、この作品の本質だと感じています。裁判という対話の場
私は弁護士として、裁判の場に日々立ち会っています。
裁判もまた、「正面から語ること」を求められる場所です。裁判では、自分の考えを整理し、言葉として相手に示さなければなりません。
同時に、相手の主張を正面から受け止め、その意味を理解する必要があります。
これは決して簡単なことではありません。弁護士の役割は、依頼者の感情をそのままぶつけることではありません。
お気持ちを丁寧に整理し、法的な「主張」として言葉にすること。
そして、相手の主張を冷静に読み解き、どこで歩み寄り、どこで線を引くのかを一緒に考えることです。言葉の品格が問われる時代に
近年、裁判書類の中にも、感情的で攻撃的な表現が目立つことがあります。
まるでSNSの延長のような言葉遣いを見ると、強い違和感を覚えます。裁判は、叫び合う場ではありません。
対立を整理し、社会としての答えを導くための制度です。
そのためには、冷静さと、相手への敬意、そして言葉の品格が欠かせません。今も問いかけ続けるドラマ
「男たちの旅路」は、決して古い時代の熱血ドラマではありません。
正面から語ることの難しさと、その尊さを、今もなお私たちに問いかけ続けています。だからこそ、再放送のたびに、つい見入ってしまうのだと思います。
ゴダイゴの ミッキー吉野 による音楽も、この作品の空気を静かに、深く支えています。
2026.01.17

