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2026.09.21

ソフトバンクが圧倒的に強いプロ野球に未来はあるか。・・・一月一言

  • 「どうせソフトバンク」と思ったとき、プロ野球は何を失うのか

    私は北海道に住んでいますから、当然、北海道日本ハムファイターズの試合をよく見ます。 ところが最近、ソフトバンク戦、特に福岡での試合をあまり見なくなりました。 理由は単純です。「どうせ負けるのではないか」と思ってしまうからです。 途中までリードしていても、最後には逆転されるのではないか。そう思いながら何時間もテレビを見て、実際に逆転負けすれば、楽しいはずの野球観戦でかえってストレスを感じます。それなら今日は別のテレビを見よう。最近、そんなふうに考えることがあります。これは一野球ファンの愚痴にすぎないのでしょうか。私は、そうではないと思っています。むしろ、現在のプロ野球、とりわけパ・リーグの将来を考えるうえで、かなり深刻な問題を含んでいるのではないでしょうか。

    ソフトバンクを批判したいわけではない

    最初にはっきりさせておきたいことがあります。 私はソフトバンクという球団が好きではありません。 しかし、だからといって、ソフトバンクの経営努力を否定するつもりは全くありません。 むしろ逆です。育成選手を多数抱え、三軍、四軍まで整備し、練習施設や指導者に資金を投入する。選手を獲得するだけではなく、自分たちで育てる。そして、足りない戦力があれば補強する。プロ野球球団として、勝つためにできることを徹底的にやっています。その姿勢はリスペクトすべきでしょう。 問題は、 「なぜ他の球団は、そこまでやらないのか」 ということです。

    「金満球団だから仕方がない」で済ませてよいのか

    ソフトバンクには資金力があります。 しかし、資金力がある球団が、その資金を野球に投入して強くなること自体は、何も悪いことではありません。 むしろ私が疑問に思うのは、「ソフトバンクはお金がありますから」という一言で済ませてしまう他球団やプロ野球関係者の姿勢です。 それで本当によいのでしょうか。 育成選手をもっと増やす。スカウトを充実させる。二軍、三軍の環境を整備する。データ分析に投資する。指導者を増やす。必要なら補強もする。勝つためにできることはいくらでもあるはずです。 もちろん、すべての球団がソフトバンクと同じ金額を使えるわけではありません。 しかし、プロスポーツである以上、「本気で優勝するために、どこまで経営資源を投入しているのか」 は問われてよいと思います。最下位になることが悪いのではありません。懸命に戦った結果、最下位になることはあります。問題は、ファンから見て、 「この球団は本当に優勝しようとしているのだろうか」 と思われてしまうことです。

    資本を投入すれば、それだけ強くなる

    ソフトバンクの現在の強さは、一時的なものなのでしょうか。 私はそう簡単には思えません。これは感情論ではなく、むしろ「資本」の問題だと思っています。 資金を投入する。選手を多数獲得する。育成組織を整備する。優秀な指導者を配置する。 その中から一軍選手が生まれる。チームが勝つ。人気と収益が上がる。そして、その収益を再びチーム強化に投入する。 資本 → 育成 → 戦力 → 勝利 → 収益 → 再投資 という循環ができあがります。 一方、他球団の投資規模が変わらなければ、その差は簡単には縮まりません。今の主力選手が30代半ばになったから、あと数年でソフトバンクも弱くなる。そんな単純な話でもないでしょう。 現在の主力が衰えるまでの数年間に、その下から次の世代を育てることができます。 足りなければ補強もできます。そう考えると、「そのうち自然に戦力均衡するだろう」と期待すること自体が危険なのではないでしょうか。

    勝者は、敗者がいて初めて成り立つ

    しかし、ここでプロスポーツには普通の企業競争とは全く違うところがあります。 一般企業なら、競争相手を圧倒して市場を独占することは、大きな成功でしょう。 しかし、プロ野球球団は違います。 対戦相手がいなくなれば、試合そのものができません。つまり、ソフトバンクという商品の一部は、日本ハム、オリックス、西武、楽天、ロッテが作っているのです。 逆も同じです。 勝者は、敗者がいて初めて成り立ちます。 もっといえば、 偉大な勝者は、強い敗者がいて初めて生まれます。 圧倒的な戦力差で勝ち続けるより、互いに死力を尽くして、最後の最後に勝つ。 その一勝の方が、はるかに人の記憶に残ります。

    18勝5敗は、本当に一番面白いのだろうか

    今季、ファイターズはソフトバンクに大きく負け越しています。 ホークスファンからすれば、もちろん嬉しいでしょう。 応援しているチームが勝つのですから当然です。 しかし、私は別のことも聞いてみたい。 「それは本当に、一番面白い野球ですか」 と。 18勝5敗で圧倒する。 もちろん勝利の喜びはあります。 しかし、9勝9敗で最後の一戦を迎える。 勝った方が優勝。 9回二死、走者二人。 一打逆転。 そういう試合で勝つ喜びとは、まったく質が違うのではないでしょうか。 スポーツの感動には、 「負けるかもしれない」 という恐怖が必要です。 負ける可能性があるからこそ、勝った瞬間に歓喜するのです。

    「アンチだから見る」と「どうせ負けるから見ない」

    かつてプロ野球には、巨人とアンチ巨人という構図がありました。 巨人が強くても、アンチ巨人は巨人戦を見ました。 なぜなら、 「巨人が負けるところを見たい」 からです。 これは興行としては成功です。 嫌われていても、見てもらえているからです。 しかし現在のパ・リーグは、少し事情が違うように思います。 北海道にはファイターズがあります。 福岡にはホークス。 仙台にはイーグルス。 千葉にはマリーンズ。 埼玉にはライオンズ。 大阪にはバファローズ。 長い時間をかけて、地域密着型のプロ野球文化を作ってきました。 だから北海道のファンは、ファイターズに勝ってほしいのです。 そのファンが、 「ソフトバンク戦か。どうせ負けるから今日は見ない」 と思い始めたら、これは相当に危険です。 「負けて悔しい。明日は勝て」 なら、まだいい。 「嫌いだから負けるところを見たい」 でもいい。 一番怖いのは、 「どうせ負けるから見ない」 です。 その瞬間、プロ野球は一人の視聴者を失っています。

    本当に怖い競争相手は、JリーグでもBリーグでもないかもしれない

    そして最近、私はさらに気になることがあります。 私の周囲でも、年配の野球ファンがファイターズより大リーグを見ることが増えています。 理由は大谷翔平選手です。北海道では特にそうでしょう。大谷選手は、遠いアメリカのスーパースターではありません。 私たちがファイターズで見ていた選手です。 札幌ドームで投げ、打っていた選手が、世界最高峰の舞台で活躍している。見たくなるのは当然です。 すると、野球ファンの一日はこうなります。午前中、大谷選手の試合を見る。ホームランを打つだろうか。今日は投げるのだろうか。ドジャースは勝つだろうか。 そして夕方になる。「今日のファイターズは……福岡でソフトバンク戦か」そう思った瞬間、 「今日はもういいかな」 となる。 これはNPBにとって、かなり怖いことではないでしょうか。

    MLBが奪っているのは「ファン」ではなく「ファンの時間」

    大谷選手を見るようになった人が、ファイターズファンをやめたわけではありません。 ここが重要です。 ファイターズも好き。 順位も気になる。 エスコンにも行く。 しかし、毎日テレビで見る野球はMLB。 こういう人が増える可能性があります。 つまりMLBが日本から奪っているのは、 「ファンそのもの」ではなく、「ファンの時間」 なのです。 これは非常に巧みなビジネスです。 大谷選手だけではありません。山本由伸選手もいます。佐々木朗希選手もいます。 これからも日本の一流選手はMLBへ挑戦するでしょう。NPBで育ったスターがアメリカへ渡る。 そしてスターだけでなく、その選手を応援していた日本のファンの視線までアメリカへ移っていく。 MLBは日本市場を非常に重要なマーケットとして考えています。 さすがBusinessの国だと思います。

    NPBは何を売っているのか

    では、NPBがMLBに対抗できるものは何でしょうか。 私は「地域」と「優勝争い」だと思います。大谷選手は素晴らしい。しかし、北海道の球団ではありません。ファイターズなら、実際にエスコンへ行くことができます。家族で応援できます。北海道という地域全体で喜ぶことができます。 そして何より、 「今年はファイターズが優勝するかもしれない」 という夢があります。 これはMLBには代替できません。 ところが、その最後の夢まで、 「どうせソフトバンク」 となったらどうでしょう。 世界最高峰の野球で大谷選手を見ることと、結果がおおよそ予想できるパ・リーグを見ること。 限られた時間をどちらに使うか。 消費者の選択は、必ずしもNPBに有利ではないと思います。

    ソフトバンクの成功と、パ・リーグの成功は同じではない

    ここで、もう一度最初に戻ります。 私はソフトバンクの企業努力を否定するつもりはありません。 むしろ評価しています。 問題は、その成功を見て、 「ソフトバンクは強い。素晴らしい」 だけで終わってしまうプロ野球界です。 一球団の成功と、リーグ全体の成功は同じではありません。 ソフトバンクの成功 ≠ パ・リーグの成功 ≠ NPBの成功 です。 ソフトバンクが勝つために合理的な行動を取り続ける。それは当然です。しかし他球団が同じような熱量で対抗しなければ、戦力差は広がる。ペナントレースの不確実性が失われる。他球団のファンが試合を見なくなる。そして、その時間をMLBが奪っていく。 個々の球団経営としては合理的でも、リーグ全体では望ましくない結果になる可能性があります。

    強いソフトバンクを、もっと強い相手が倒すリーグに

    では、どうすればよいのでしょう。 私はソフトバンクを弱くすればよいとは思いません。 反対です。 他の球団がもっと強くならなければならない。 もっと選手を育てる。 もっと施設に投資する。 もっとスカウトする。 もっとデータを活用する。 必要なら補強する。 「ソフトバンクには資金力がありますから」で諦めない。 ファンから入ってきたお金を、勝つために再投資する。 そしてリーグ全体としても、 「加盟球団が本気で優勝を目指すこと」 を当然の前提とする制度を考えるべきではないでしょうか。 ソフトバンク90勝。 ファイターズ88勝。 オリックス86勝。 最終週まで優勝チームが分からない。 そんなリーグなら、ホークスファンだって、ファイターズファンだって毎日見るでしょう。 その中でホークスが優勝するのであれば、それこそ素晴らしい優勝です。

    プロ野球が売っているものは「勝利」ではない

    プロスポーツについて考えていると、最後はここに行き着きます。 プロ野球が売っている商品は、本当に「勝利」なのでしょうか。 私は違うと思います。 プロ野球が売っているのは「競争」です。 勝つかもしれない。 負けるかもしれない。 今年は駄目だった。 しかし来年は分からない。 だから人は球場へ行きます。 だから毎日順位表を見ます。 だから負けても翌日の試合を見るのです。 勝者は敗者がいるからこそ成り立つ。 そして敗者には、 「明日は自分たちが勝者になれる」 という希望がなければなりません。 その希望が失われたとき、ファンは怒るのではないかもしれません。 もっと怖いことが起こります。 静かに、見なくなる。 テレビを消す。 別の番組を見る。 あるいは朝、大谷翔平選手を見る。 私は、これこそが現在のプロ野球が最も警戒すべきことではないかと思っています。